中川先生の「ためになる話」

『チーフ・リスニング・オフィサー』

イラスト これまで医療はサイエンスだという面ばかりが強調されて医療の基本はコミュニケーションだという面が無視されがちだったが、最近欧米では面白い本が相次いで出版されるようになった。ダニエル・オーフリの「患者の話は医師にどう聞こえるのか」(みすず書房)もその一冊。このなかのエピソードを一つ紹介したい。
 オランダに不思議な能力を持った女性がいる。彼女は医療訴訟や患者からの不満で潰れそうになっていた病院を見事に救った。彼女に経営手腕があったわけではない。弁護士でもない。さらに言えば医療のどんな資格も持っていない若い女性である。名前をコリナ・ヤンセンという。コリナには卓越した聞く能力がありその一点を評価されて、病院から助けて欲しいと頼まれた。それで彼女は「私は何をすればいいのですか?」と聞くと病院は「様々な問題の当事者から話を聞いて欲しい。あなたの職名はチーフ・リスニング・オフィサーにしよう」と言われた。それでコリナはいつもの方法でいくことにした。方法はとてもシンプルなもので、ただ当事者の話を熱心に聞く。例えば医療過誤を受けた直後の患者は当然ながら動転・怒り・怖れ・混乱など複雑な感情が渦巻いている。もちろん過誤を起こした側の医師や看護師やスタッフにも恥ずかしさ・罪の意識・狼狽・混乱がある。コリナは関係者すべての住んでいる所まで気軽に出かけていき、ただ話を聞いた。当事者である患者も医師も、熱心に聞く彼女の前では心を開いて自分の打ち明け話が出来たようだ。コリナの方法は時々質問を挟んで話を明確化し、相手に全神経を集中する、助言したり意見を述べることなくただ言いたいことを全てはき出すまで聞くだけだった。問題が明確になり、当事者たちがやらねばならないことがはっきりしてくると混乱がおさまり、医療過誤のような激しい感情が渦巻く問題も解決してくるという。もちろん病院側もコリナの提案を真剣に受け止め、賠償問題などにもきちんと対応したことも大きいが、コリナのいる間に瀕死の状態になっていた病院は見事に再生を果たしたという。問題を抱えた当事者の物語を聞き届けることは医療の根本かもしれない。

顧問医師:中川 晶

中川晶先生プロフィール

中川晶先生プロフィール

 産経新聞の『中川晶の"生き方セラピー"』でご存知の方もおられると思います。
10年来お付き合いいただいている私共が言うのもなんですが、それはもう愉快な方で、一度語り始めると尽きることがないかのように実に幅広い、しかも有益で面白い話題が湧き出てくるのです。これはおそらく、一度や二度ではない挫折体験と、森羅万象に対する、特に人間に対するとてつもない興味がなせる技だと思えます。受験生についてもご自身の実体験と、臨床心理士としての深い洞察から、真の受験生の心の友となっていただけること請け合いです。先生のユニークで的を得たお話しを、お楽しみください。

  • なかがわ中之島クリニック院長
  • 奈良県立医科大学医学部卒業
  • 精神科専門医、臨床心理士
  • 大阪赤十字病院看護部講師
  • ナラティブコミュニケーション研究所所長
  • 京都看護大学大学院特任教授
  • 奈良学園大学保健医療学部客員教授
  • 京都大学医学部講師
  • 日本保健医療行動科学会会長
<著書・共著>
「心療内科のメルヘン・セラピー」(講談社)
「やすらぎが見つかる心理学」(PHP)
「心理療法」(朱鷺書房)
「ココロの健康からだの医学」(フォーラムA)父(故人)中川米造先生との共著 他

一人ひとりが、志望学部へ。

私たちは考えます、キミにとって最善の学び方を。
私たちは用意します、キミが最大限にがんばれる学習環境を。
私たちは知っています、キミの夢に対する確固たる熱意を。
なぜそう言えるのか。
それは、医学部・歯学部・薬学部・獣医学部 受験指導で、
生徒一人ひとりに向き合い、語り合い、
共に合格を目指し、歩んできた40年間があるからなのです。

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